金箔の可能性をクリエイトし続ける 歴清社
世界一の箔押し技術を持った会社が広島にあるって!?京都じゃなくて??金箔の会社、と聞いて、伝統工芸品を作っているのだろうと想像しませんか?私はしました。歴清社のことを全く知らないまま、これは参加しなくては!と思った工芸好きの私は、今回レポーターとして潜入させていただきました。潜入というのも大袈裟ではありません。歴清社はB to Bの会社ですので、一般のお客さんが訪れる機会はほぼ無し。商談に使われるショールームから先は撮影禁止のため、今回の授業は貴重な見学の機会となりました。
秘密の工場へ
参加者全員ショールームに集合の後、軽快な久永社長のトークに促されて工場へ。その前に、ちょっと変わったデザインの階段を3段登ります。ここで質問です。「この三角形の頂点の角度は何度でしょう?」

(ここの角度です、と久永社長からのクイズです)

(工場へと向かう、変わったデザインの階段を拡大してみると…)
どうですか?場が盛り上がる前にカメラスタッフがあっさりと正解を答えてしまったのですが(笑)正解は「108度」。煩悩の数です。ここで煩悩を払ってから工場へお進みください、とのこと。階段をあがり、ドアを開けると工場の建物に続く狭い通路に出ます。
通路脇には掲示板が設けられていて、歴清社がこれまでに掲載された記事がたくさん貼られていました。広島地場の有名企業として、マツダ、カルビー、モルテン、ダイソー等、そうそうたる全国区の会社と並んで紹介されています。広島駅の待合室、五つ星ホテルやスカイツリーなどの内装に歴清社の金紙が使われている写真も。どうもこの会社の商品はいわゆる伝統工芸品とは随分違うようです。
久永社長が強調されたのは、「箔押しによる金紙の製造というと、伝統技術を守るばかりの古い体質の製造業だと思われがちですが、歴清社は商人から出発しています。工夫とアイディアで問題を解決し、新しい事業にチャレンジしてきました。」と。社員さんのユニホームにしても、トラッドカジュアルなジャケットにチノパンです。どうも想像していたような日本文化の継承、とか、職人の技とこだわり、なんていうのとは違うのかな?いったいどのような商品をどのような工程で作っているのでしょう。
歴清社の歴史
工場でどんな商品が作られているかを見る前に、まずは会社ができる以前、久永家のお話しから。久永社長のご先祖は浅野藩と共に広島にやって来て根付いた商人、刀剣商だったそうです。しかし明治の廃刀令によって刀剣を扱う事が出来なくなったため、新たな商品を売買する必要に迫られました。そのため香炉、掛け軸等の調度品を扱っていたのですが、その中で一番引き合いのあるのが金屏風だったそうです。ホテルや宴会場のない時代、旧家や大地主などの階級は家でお祝い事を行うため金屏風は必需品であったのだとか。扱いたくても商品は高価で少なく、だったら自分で作っちゃおうと考えました。しかし、いきなり作ってみたところで京都製には負ける、どうしよう…。そんなとき、かつて久永家のあった堀川町のご近所の仏具屋さんに額縁屋さんを紹介され、この課題をクリアするヒントを得ます。額縁の金色は本当の金を使っているのではなく、洋金(銅と亜鉛の合金)を使っているのだと。そこでこの洋金箔で金屏風を作る事を考えつきます。なんと本金の10分の一の価格で、同じような商品が作れる!!
開発努力
こうして歴清社の前身である「久永清次郎商店」は金紙工場として1905年に創業するのですが、実は洋金の屏風はそう簡単には作れなかった。色は本金と遜色のない洋金ですが4倍の厚さがあります。本金の0.1ミクロンに比べ、洋金は0.4ミクロン。また和紙の上に貼るには専用の接着剤が必要で、その上、洋金は変色しやすい。指で触れると触れた部分の色が変わってしまいます。これを防がなくては売り物になりません。創業者は10年の歳月をかけて洋金に合った接着剤とトップコートを開発。これにより、安定して良い商品を作る事が出来るようになりました。その後、時代の変化によって会社の歩みは平坦ではないながらも、注文をどんどん増やし、新しい素材や分野にチャレンジしながら現在に至っています。創業者の開発したこの接着・上留技術は、現在も変わることなく、歴清社を支える強さの秘密になっています。
工場見学
工場内部は、サイズ小さめの木造建築。戦後に小学校を移築したものを今でも使っているとのこと。古い建物好きにはたまらない建築物です。しっかりとした木の階段も、手すりも、すっかり角がとれています。階段を上った3階には、箔押しの部屋など作業をする部屋がいくつかあり、何人もの職人さんが作業中でした。あ、しかしあえて職人と呼ばず、クリエイターと呼びましょう。確かに箔押し技術は職人技ですが、常に新しい商品の開発を行われているとのこと!なんとも楽しそう!!
パーテーションで仕切られたスペースには、それぞれに出来上がり製品大の板が斜めに立てられ、その上に接着剤が塗布済みの紙(箔を貼るための台紙)が広げられています。台紙は機械漉きの越前和紙。その上に竹ばさみ(竹製のピンセット状の道具)を使って、立ったまま左から右へと移動しながら一枚ずつ薄い箔を台紙いっぱいに張っていきます。長いものだと何人かで並んで同時に作業されていました。見ていると、息を止めてやってるんだろうなと思うような、気を遣う作業です。
私達が一般に想像する金屏風の貼り方を「平押し」というそうです。遠目には金一色だけれど、かすかに正方形の箔の継ぎ目が見えるものです。台紙が覗かないよう、わざと少し重なるように箔を張り付けていき、最後に専用の道具、ダンゴ(綿をまるめたもの)で余分の箔を払い落としていきます。この時出た金属クズで、紙に傷をつけないよう力加減に注意し、かつ検品も同時に行うとのことでした。これも気を遣う作業ですね。たくさんクズが出るのでもったいないようですが、これはまた別のデザインに利用できます。
他にも、金紙を製造した上にわざとシワ加工した薄絹布を張り付けたり、木枠にひもを張った型を作って平押しの上に柄を付けたりと、同じ作業を繰り返すだけではなく、様々な新しいデザインを考案し続けているそうです。金属箔の種類も、洋金の他に錫箔(すずはく)、銀箔等がありそれぞれに独特の色味、輝きがあります。見学しているときにちょうど、本金箔を貼ったものがありました。とんでもなく高いので、近寄らないでね、との注意を受けて遠目に見たのですが、素人目には洋金との違いはわかりませんでした。