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担当学芸員に聞く! 広島平和記念資料館リニューアルの全貌

2019/07/15

「昔のことではなく、自分と結びつけて感じてほしい」
 

よく晴れた朝。土橋町のソーシャルブックカフェハチドリ舎に40人が集まりました。平和記念資料館(以下、資料館)の学芸員、落葉さんを囲んで和やかな雰囲気で会は始まりました。「今日は社会ゴトについて考えるための場所で、広島市民としてどんな資料館がいいのか?ということを語り合ってみましょう。」

 

まずは落葉さんから今回の資料館のリニューアルの概要について紹介がありました。

実はこのリニューアルは15年前から丁寧に計画されたもの。2007年の更新計画策定から、展示設計、リニューアルオープンに至るまで多くの専門家・関係者が何度も検討会議を重ね、やっと訪れる人びとに見てもらえるようになったのだということです。

 

このリニューアルが行われた背景の一つは建物の耐震工事を行う必要性、もう一つは原爆投下から70年以上経過したこれからの時代、被爆者なき後に資料館は何を展示し、何を伝える役割を果たすべきなのか?という問題意識でした。計画策定等にあたっては、前の展示について来場者へのアンケートや被爆者等当事者や有識者との検討会議、物理学者や博物館学芸員等といった専門家の意見が取り入れられました。

 

主な変更点としては、

・観覧動線の変更

以前の展示は東館(説明展示)から本館(被害の展示)へ移動する流れでした。来場者アンケートから、東館の滞在時間の方が長いという傾向がわかり、より本館に滞在してほしいという理由で、今回は東館3階に導入展示、そして本館2階の被害を伝える展示、それから東館の説明展示への流れに変更しました。またそれに伴い、東館と本館をつなぐ通路の往復が生じるため通路を広げる工事も行いました。

 

・より被爆者の当日の様子がわかる展示に

原爆投下からその年の末までに亡くなった人の数は14万人±1万人。その統計的な数字ではなく、被爆者ひとりひとりの苦しみや想いが浮かび上がる展示を目指しました。ひとりひとりの物語を浮き彫りにすることで、観覧者自身が、自分とリンクする何かを得られるように工夫する。原爆を知る時、人間の視点に立った展示をつくりあげました。それは、被爆者との検討会議や来場者アンケートに基づいて市民の声をできるだけ反映させたものです。また、展示には「実物を中心に使う」という方針があります。レプリカではなく実物を。そのひとつひとつと向き合い、思いを感じられる空間を。原爆の被害を伝えようとする人びとの熱心な想いが、リニューアルの根底に脈々と流れていることを感じました。

 

そこで会場からも気になると声があがったのが、蝋人形についてです。展示のリニューアルについて資料館が発表した際、報道で大きく取り上げられた蝋人形。一部では「子ども達にとってこわすぎるから撤去する」という理由からだと言われ、反対意見もありました。しかし、資料館として蝋人形を撤去する選択は「こわいから」ではありません。ありのままを伝えたい。実物を見てほしい。限られた広さでより実物を展示するための選択でした。そのため、以前よりも凄惨な展示内容も増えています。小さい子ども達への影響を鑑み、本館に入る前に子ども達に配慮するようにとの呼びかけがあります。資料館からの、心の準備をしてから展示に向き合ってほしいという想いが反映されています。

 

資料館には、所蔵資料が資料約2万点、写真約7万点、絵約5千点が保存されています。その中から何を展示するのか。どう展示するのか。ひとつひとつの展示に議論が絶えませんでした。本館入口と出口に貼られた女性の写真は1枚にするか2枚にするか。原爆さく裂の瞬間は写真ではなく、作者の言葉の入った絵にしよう。遺品の集合展示のキャプションはつけるかつけないか。並べ方はどうするか。街の遺品をケースに入れるか入れないか。写真と絵は一緒にするか別にするか。床の材質は?暗さは?…等多くの検討点が紹介されました。当時のような混沌とした状況を伝えるためにケースをできる限り用いない展示が選択されたり、遺品そのものと向き合うためにキャプションが削除されたりと最後まで展示は改善されていたそうです。

 

その他には、人への原爆の被害について、爆風熱線放射能という区別ではなく、ひとりひとりの苦痛に触れられるような工夫がされました。外国人被爆者についても初めてパネルが用意され、海外の人への訴求力が増しました。本館の展示をどうしめくくるのかという問いには、被爆者の想いをそのまま持ち帰ってほしいという想いを込めて、以前の展示が希望的だったこととは対照的に、日常生活の中でもある時ふと原爆を思い出し、悲しみや苦しみ、不安、絶望と隣り合わせの人生を歩まざるを得なかったことを感じさせる写真を用いました。

 

1時間ほど落葉さんの説明を聞いた後、資料館を見学しました。今まで見ていた資料館が少し違って見えました。それは、資料館の中で15年もの歳月をかけて検討を重ねてきた人の想い、展示されているひとつひとつの内容に込められた意図、そして展示のコンセプト「あなたの近くにこの原爆はあるのだ」という強いメッセージを心得ているからだと感じました。つくっている人の想いに触れた時、資料館の展示がいかに覚悟をもってつくられたものなのか、そしてこれでもか、これでもか、と身に迫って伝えようとしてくる数多の魂の叫びを感じずにはいられないのでした。

 

資料館の見学後、ハチドリ舎に戻ってカレーを食べながら振り返りを行いました。展示内容や方法についての意見も多く出ましたが、一方で広島の街の中の資料館以外の場所でどのように原爆のことを伝えていけるのか?という議論にもなりました。

 

ひとつひとつのコーナーについてどのような想いで組み立てられたのかを丁寧に語ってくださった落葉さん。繰り返されていたのは「より具体的なエピソードを用いることで、昔のことではなく、自分と結びつけて感じてほしい」ということでした。落葉さん自身が被爆者や遺品と向き合うようになったのは資料館に勤務し始めてからのこと。それまでは関わりのなかった原爆について、たくさんの人のそれぞれの命が奪われたことに衝撃を受けたといいます。ひとりひとりのことを伝えたいという想いは、落葉さんの真っ直ぐな眼差しから会場にじんわりと広がっていきました。

 

■レポート/福岡 奈織

■写真/大賀 拓己
 

 

 

2019年7月15日(月)開催

担当学芸員に聞く! 広島平和記念資料館リニューアルの全貌

先生:落葉 裕信(広島平和記念資料館学芸課学芸員)

教室:Social Book Cafeハチドリ舎

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